グアム島からの遺書
(厚生省グアム島元日本兵調査派遣団により発見された遺書より)
海軍軍属 石田正夫命
昭和十九年八月八日 グアム島にて戦死
兵庫県加東郡中東条村出身 享年三十七歳
昨夜子供の夢を見て居た。父として匠に何をして来たか。このまま
の土をふまぬ日が来ても、何もかも宿命だとあきらめてよいだらう
ろかな父にも悲しい宿命があり、お前にも悲しい運命があつたのだ
強く生きてほしい。そして、私の正反対な性格の人間になつて呉れ
に切に祈る。
合掌
三月〇日 内地の様子が知りたい。聞きたい。毎日、情勢の窮迫を申し渡
されるばかり。
自分達はすでに死を覚悟して来てゐる。万策つきれば、いさぎよく
本月の〇日頃が、また危険との事である。若し玉砕してその事によ
祖国の人達が少しでも生を楽しむ事が出来れば、母国の国威が少し
く輝くことが出来ればと切に祈るのみ。
遠い祖国の若き男よ、強く逞しく朗らかであれ。
なつかしい遠い母国の若き女達よ清く美しく健康であれ。