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英霊の遺書(12)

バタビヤの悲歌

 

 陸軍憲兵少佐 長 幸之助 命

  昭和二十二年十二月三十日 ジャワ島バタビヤ「グロドック」にて法務死

  福岡県宇美町出身三十一歳

 

1,玉きはる、命のきはに、月見れば

歌ごゑたかし、花みれば、白露しとゞ

大いなる、光のうちにいつくしき

人の心は、たらちねの、母をしおぼゆ

せゞらぎの、清けき里の、ふる里の

春の野山は、今こゝに、われと在るなれ

今こゝに、われと在るなれ、花かすむ里

 

2,みんなみの 命し終えぬ ますらをや

いで立ち行かむ、靖国の、花咲く宮へ

君います里

 

3,みんなみは、茜にもえぬ、バタビヤの

丘に散り行く、むらさきの、花打ち見れば

花の心の、しづ心なく

 

 

私と一緒に六名の方々がバタビヤで散ります。又二十三名の方々が有期

 で服役してをられます。特に六名お遺家族には洵に気の毒な方も御座いま

 す。もう日が暮れてまゐりまして、字も判然と見えません。明朝グロドツ

 ク刑務所に行きます。間があると思ひますので又明朝筆を執ります。(十二

月二十八日夕、独房にて)