沖縄の戦陣より妻へ
陸軍中尉 渡辺健一命
昭和二十年五月二七日 沖縄本島喜屋武にて戦死
栃木県出身 東京大学卒 享年二十九歳
まだお便りする機会は何度かありませう。
つあります。
おそらくは、あなた達の予想外の速さでやつて参りませう。
い中に、言ふべき事は言つて置きたいと思ひます。然し、
ていると今更乍ら申すことのないのに気がつきます。
ばなりません。寂しい、
使命に進まなければならぬ立場にあるのです。
つて戦ひ抜きたいと思ひます。不惜身命 生きる事は勿論、死ぬことすら
も忘れて戦ひたいと念じて居ります。
えずに、祖国の周囲に屍のとりでを築くつもりで居ります。
た達の上に光栄の平和の日がおとづれて来ることと思ひます。
つて私の身を以てつくしたいささかの苦労を思ひやつて下されば私
それで本望です。
愛する日本、その国に住む愛する人々、
と考えることは真実愉しいものです。
ことを許さなかつた私としては さう考えることによつて あなたへの幾
分の義務を果たし得たやうな安らかささえ覚えます。……
一度戦端が開かれれば、
万一の事があつたさい、たとへ 一切の状況が不明でもあなたの夫はこの
やうな気持で死んで行つた事だけは、さうして最後まで あなたの幸福を
祈つて居た事丈は 終生 覚えてゐていただきたいと思ひます。
その後体の調子は相変らず、すこぶる好調です。
ります。
御機嫌よう。
昭和二十年二月十日